第13章 湖畔の一夜 (1)
 あと3週間でヨッシーは帰ってしまいます。私たちはいまヨッシーとの思い出作りに懸命です。実は最近になってヨッシーは大変な記録を作りました。あるパーティでハンバーグを実に8個も食べたのです。
 いまさらながらヨッシーの旺盛な食欲には驚かされています。
 息子たちは高校の卒業祝いを知人からたくさん頂いて満足そうです。「僕は今や大変な金持ちだ。」とヨッシーは、はしゃいでいます。私はよくカメラを手に、カーチスとヨッシーの2人を追いかけまわしました。
 「ちょっと待って、動かないで・・・・・・。」と呼び止めてはパチリパチリとカメラに収めました。こうしておけば永久に残しておけるのですから。
 あい変わらずヨッシーは家の中の私のお手伝いをしてくれています。ある日彼は古ぼけた青い魚釣り用の帽子をかぶって、私たちのベッドルームに掃除機をかけてくれました。
 大好きな“オールド・ブラック・ジョー”を大きな声で歌っていたのですが、急に掃除機を止めて、器機ごとつかむとバスルームにかけ込んだのです。バスルームの中で何をしているのか、随分長い間入っていたので、私は少し心配になってドアを叩いて声をかけてみました。「お母さんのストッキングを掃除機に吸い込んじゃったんだ。あっという間にね。」と弱り切った声です。「そんなの古いんだから心配しなくていいのよ。」と言うと「いやあ、助かった。」と安心したようでした。

 金曜日の昼過ぎ、彼はタイピスト教室から戻ってきました。ちょっと元気のない顔付きをしています。ちょうど学校のグリフィン教頭から電話がかかってきました。
 「奥さん、留学生担当というのも本当に辛いものですね。実はヨッシーが今日、タイピスト教室の帰りにちょっと立ち寄ってくれてね。しばらく話した後『先生、さようなら、ありがとう。』と言いながら突然泣き出したんですよ。彼はこの期間本当に楽しかったんだね。」と話してくれました。
 ヨッシーは1人1人に別れの挨拶をしてまわっているようでした。夕食の時、夫のジョーがヨッシーに言いました。
 「もう君にとって最後の週末だな。何んでもいいから君のやりたいことを言ってごらん。」
 「僕はキャンプに行きたいな。」
 「よし、それじゃキャンプに行くことにしよう。」
 翌土曜日の朝、少し寒いけれど晴れ上がった素晴しい天気でした。一家4人、キャンピングカーでギブソン湖畔に向けて出発しました。運転していたカーチスがリアシートのヨッシーに「おい、昨夜はお前英語で寝言をいっていたぞ。」と冷やかしました。
 「そうか、それで思い出したぞ。だって夢の中で日本に帰って両親と英語でしゃべっていたんだから。それにお父さん、先週来た手紙によると、日本の家でも今や朝食にハムやベーコンを食べるようになったんだって……。」
 話題は日本のことになって、日本は唯一の原爆被爆国で、国はもう二度と戦争はしないと誓っていること、もはやロケットなどは作っていないけれど、経済的には急速な成長を続けていることなどを話してくれました。
 「実は僕はね、今まで学校を1日も休んだことがないんだ。」
 「そりゃ立派だわ。でも一度も病気がなかったの?」と私。
 「いや、病気をした時もあったけど、その時は父や母が僕をおぶって学校に行ってくれて、出席を登録してからすぐ帰ってくることも何回かあったんだ。」
 そんな話しを聞いて、ヨッシーの日本のご両親の愛情についホロリとさせられました。(続く)