| 第2章 愛の贈り物 (2) |
毎日楽しい日が夢中で過ぎていくのですが、彼が食事について本当に満足しているかどうか少し心配になることがありました。
ある日の夕方。私はひとり椅子にかけて考え込んでいました。ヨッシーが我が家に来てから、約1ヶ月。彼が食べ物をお腹いっぱい食べるのは、本当は食べたくて食べられないものがあるために、その反動が来ているからではないかしら。私は彼のお母さんのことを考えてみました。東洋風の台所で調理し、カラフルで目もさめるような並べ方で盛り付けをする、それにきっと茶道の礼儀も取り入れているのかしら……。そんなとりとめもないことを。ジョーが私の心を察したのかしら、「君はあまり心配してはいけないよ。あまり気にすると身体をこわすよ。」と言いました。
「私は何も疲れてはいません。ただ彼のお腹を十分満足させられているのか、少し心配なのよ。」
「君はこの僕に一度だってそんな心配をしてくれたことがあったっけ?」
「そりゃ、あなたの場合、17歳の年で、しかも8000マイルも家から離れていた訳ではないでしょ。」といって笑いました。
ヨッシーはだんだんと私の作ったライスに慣れてきた様子で、私も毎食ライスを食卓に出すようになりました。
夫のジョーは、あまり好きではありませんが、カーチスはこの時以来、大のライス好きになってしまいました。問題はお茶なのです。私はヨッシーに考えられるだけの私たちのお茶を出してみました。ブラックやオレンジやグリーンで、スパイスで、しかも弱く、強く、冷たいの、熱いのと、いろいろ試してみましたが、どうも満足そうな顔が見られません。
そのうち、彼は手紙できっと催促したのでしょう。ある日、航空便で日本のお母さんから、1年分とも思えるほどの量の日本茶が届いたのです。
「わぁっ、これで毎日好きなお茶が楽しめるわね。」というと、彼は、早速台所でお湯を沸かしはじめました。
包みの中から、1袋とり出してみると、まず細長いプラスチックのような紙に包まれ、何か漢字が書かれてあり、鼻でかいでみると、珍しい香りです。“緑茶”(グリーン)というのに、真っ黒で木の屑みたいなものが沢山入っているのです。ようやくお湯が沸くと、ポットにそそいで最初の1杯をカップに注ぎ、ヨッシーはその1杯をおいしそうに音をたてて飲み始めました。
「お母さん、日本ではお茶は古くなったのを人にすすめるのは失礼にあたるので、1、2回使うと必ず新しいのに変えるんだよ。」
朝食もまた大変でした。ベーコンと卵を作るのも毎日ごとでは面倒なこともありますので、思い切ってオートミールを出してみたところ、彼はかなり困ったような顔をしました。“砂糖とクリームを入れてごらん”というと、”いや、砂糖を食事に直接使う習慣はないんだ”と言います。私は他の種類のセリアル(穀物食物)を試してみましたが、結局同じ反応でした。砂糖をかけることは、かえって問題を複雑にするだけのようです。
ある朝、思い切ってテーブルで聞きました。「あなたは普通何を食べていたの?日本では。」
「野菜や海草の入ったスープがあるんだよ。」
ジョーがちょっと顔をしかめて言いました。
「おい息子よ、オクラホマ州には海草はないよ。だって海がないんだから。」
ヨッシーは酸っぱいもの、塩辛いものは、あまり好みじゃないようで、オリーブなどは口に入れたあと、こっそりバスルームで吐き出してしまったようです。
ところが、一度ヌードル(うどん)の入った野菜スープを出したところ、大声で、
「ヌードルは大好物なんだ。“ソバ”という日本のヌードルがあるんだけど、これは本当においしいんだ。」と大喜び。
フライド・チキンも彼の大好物で、日本ではチキンは唐揚げより、小さく刻んでスープや他の料理にまぜて使うことが多いんだという話しでした。魚については、どんな料理をしても、おいしそうに食べました。「まさか生のままでは食べないでしょう。」と聞くと、「もちろん、生で食べるさ。日本のことを知らないんだな、お母さんは。」
これを聞いたカーチスは、「うわーっ」と悲鳴をあげて椅子から落ちそうになりました。(続く) |
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