第5章  秋の訪れ (2)

 
  いよいよ待ちに待ったハロウィーンの日が来ました。これは、“満聖節2といってローマ・カトリック教すべての聖者の霊をお祭りする重要な日であり、毎年11月1日に行われますが、その前夜祭が“ハロウィーンの日”なのです。この日は、子供達には楽しいいたずらが出来る晩なのです。私はヨッシーのために籠一杯のキャンディを用意してやりました。子供たちが家に侵入してきた時、このキャンディを少しずつ渡せば暴れずに帰っていくからです。さあ、その晩は、お化けのお面をかぶった子供たちの集団が何組もドアを叩きます。ヨッシーはもの珍しさもあって、その都度ドアをあけてキャンディを渡してやっています。中でも凄い恰好の怪物のお面や衣装をつけた集団が来ると、大声で「お母さん、ちょっと来て見てよ、すごい恐い恰好をしているよ。」と呼んでくれます。夕方の子供達のラ乱入が終わると、今度は高校生たちによるハロウィーン・パーティです。フランケンシュタインだの、棺桶の美女だの沢山の仮装が用意されているようです。そしてカクテルやパンチなども。
 ヨッシーにとって忘れられない楽しい思い出となる一晩であろうと思われます。
 ところでこの頃から私は、ヨッシーとカーチスの2人に、女の子とのデートをそろそろ計画しなさいと言っていました。カーチスが言うには「ヨッシーの奴は、なかなかそんな雰囲気じゃないんだよ。無理やり首に縄をつけて行く訳にもいかないしね。」
 私は台所のテーブルで3人になった時、再びトライしてみました。「ねえ、君達、今度の週末はブラブラしてちゃ駄目よ。是非デートの約束をしなさいよ。ヨッシーはアメリカの女の子が嫌いなの?」
 「いやあ、みんな素敵だよ。」といいながら籠の中からバナナを1本取り出すと、パクリと食べてしまいました。カーチスが脇から、
 「でも女の子を連れ出すとお金がかかるんだよな。それに僕は本物のブロンドの女の子が好きなんだけど、なかなかそういう女の子いないんだよ。」
 ヨッシーも調子を合わせて、
 「そうそう、女の子ってなかなか難しいんだよ。」そう言いながら、バナナを食べています。私もいい加減頭にきて言ってやりました。
 「もう知らないから。庭に出て芝でも刈っていなさい。」
 2人して庭にとび出るや、ヨッシーは「お母さん怒ったのかなー。」と小さな声で心配しているのが聞こえました。
 それから何日か後、私はまた2人をとっちめてやろうとテーブルについたところ、カーチスがいきなりこう言いました。
 「お母さん、言われる前に言っておくけど、今度ジムと3人でトリプルデートをすることに決めたんだ。女の子をフットボールゲームに連れて行くことにしたんだ。」
 「わあ、よかったわ。頑張ってね。」と私は思わず叫んだのです。でもヨッシーは、落着かない様子で椅子から立ったり坐ったりしていました。「心配しないように教えてやりなさい。」とカーチスに言ってやりました。
 さて、その週末が来ると緊張の連続でした。部屋で勉強をしている時も何かうつろな目を壁に向けたり、窓の外をぼんやり見ていたり、家の中を意味もなくうろついてみたり、時にはカーチスに「女の子に何んて話せばいいかな?」とか、いかにも心細げに聞いてみたりしていました。

 さあ、デートの夕方が来ました。お気に入りの洋服で身だしなみを整えた2人に、私は「とっても素敵よ。」と思い切りほめてやりました。「ヨッシー、あまり緊張しないでね。」「きっと大丈夫よ。カーチス、うまくリードしてあげてね。」
 翌朝のテーブルは、もちろんトリプルデートの報告会になりました。まずカーチスが「いやあ大変だったんだよ、まずお迎えの時、ジムをひろってから次にあいつのお相手、スーザンの家に行ったんだ。車を家の前に止めて“さあ迎えに行ってこいよ”と言うとヨッシーったら“君も一緒に来てくれよ”と言うんだ。2,3分言いあったんだけど、彼はどうしても1人じゃいやだというものだから、結局2人で迎えに行ったんだ。でも帰りには大分慣れたらしく、ドアの所までちゃんと送っていったよ。あいつもきっと疲れたんじゃないかな。」
 柔道では無敵のヨッシーだけど、女の子については、なかなか手を焼いているみたいです。(第5章終わり)