| 第 6章 きかん坊 (1) |
ヨッシーがわが家に溶け込み、のびのびと生活するようになって、彼のいろいろな面が見えてくるようになりました。最近では彼の洋服の着こなしが、あまり上手くないということに気がつきました。
彼は、本来とてもシャワーが好きで、毎日シャワーをあびていましたが、洋服や着るものには全く無頓着なのです。ある朝、学校に行く時、彼のベージュのウェザーコートを見てびっくりしました。きっとクロゼットの隅っこにでも放り込んでおいたのでしょう。まるで等高線の入った地図みたいにしわしわになったままなのです。玄関の鏡に自分の姿を写させたところ、私の顔を見てこう言いました。
「お母さん、心配いらないよ。どうせ背中は僕には見えないんだから……。」この言葉には、私も全く返す言葉もありませんでした。しかし、段々と彼の着る物や身だしなみに対する考えが分かって来ました。テニスシューズについて、こんな話しがあります。彼が好んで使ってきたテニスシューズがボロボロになったので、彼の日本のお母さんがある時、そのシューズを捨てて新しいものを買って置いていたそうです。それを後で知った彼は、怒り狂ってゴミ箱をあさり、古いボロシューズをやっと見つけ出し、またそれをはいていたという話しです。
きっと日本のお母さんもご苦労されたことでしょう。彼がまだ日本にいた頃、修学旅行で京都や奈良へ行った時のこと、彼だけがテニスシューズをはいていき、他の生徒たちは革靴だったので、旅館でも決して他の友達と間違えるようなことはなかったと、平気で笑っていました。
彼のくたびれかかっていた靴が、とうとう片方パックリと口を開けてしまいました。ところがジョーの作業室に行っていたかと思うと自分で針金で細工して修繕してきたのです。
これがまた大変。家の中を歩くと板張りのフロアーで“カラン、コロン、カラン、コロン”と奇妙な音がするのです。
ヨッシーはでも平気で部屋の中を歩きまわっていました。新聞を読んでいたジョーが、とうとうたまりかねて、「おいこら、いい加減にそのボロ靴を捨ててしまわないか?」と怒鳴りました。カーチスが脇から声を上げました。「お父さん、実は僕が修善にもっていったんだが、靴屋が大笑いして捨てる以外手はないねというものだから持って帰ってきたんだ。あいつ、やっぱり古い方がはきやすいといって離さないんだ。」「そういえば俺の古い靴があったな。ヨッシーに合うかどうか、ちょっと見てこよう。」とジョーが部屋を出て行きました。
ジョーの古い靴はヨッシーにぴったりでした。カーチスがきれいに磨き上げて、靴騒動は一件落着となりました。
私の毎日の悩みは、ヨッシーがちゃんと洋服をハンガーに掛けないこと。私がしつこく言わないと、すぐ脱いだまま床に放っておくことです。やっと掛けたと思っても、何枚も重ねたり、斜めに傾いていたり、床までぶら下がったままです。私が注意すると、いっ時直すのですが、「ボロを着て天国に行くか、さもなければ正装して地獄に堕ちるか、僕は天国に行くほうがいいなぁ。」などと茶化してみたりするのです。
ある晩のこと。スポーツウェアで参加するパーティーに行く準備をしていました。突然カーチスが大声で「おい、そりゃ駄目だよ。」「何が悪いんだい?」とヨッシーの声。私も思わず二人の議論に割って入りました。「ねぇ、ヨッシー。もしあなたのマナーや服装がおかしかったら、きっと“彼のお母さんはどういう神経なんだろう”って人に言われるでしょう?だから私の話しも聞いてね。」
私はそういうと、彼のためにズボンとジャケットを選んでやりました。私の手にかかって、彼は何と素敵な姿に変わったでしょうか。(続く) |
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