第8章  ある誤解 (1)

 イリノイの両親の所に10日程居て家に戻ったのですが、何だか家の中がおかしいのです。
 夫に「何かあったの?」と聞くと、「くわしくは分からないが、ヨッシーが先生の非難をしたとかで、学校で騒いでいるようだ。」
 「授業中ヨッシーがとなりの級友に“あの先生の授業は、あまり準備されていないね”と言ったらしいんだ。当のビル・ベネット先生がかんかんに怒っているそうだ。」
 ヨッシーは非常に心配しています。
 「僕は国の代表として来たというのに、こんな問題を起こしてしまって、本当にどうしたらいいのだろう。」と部屋にこもっています。私にはそんな深刻な問題とも思えないので、留学生の世話役をしているフォード夫人に電話をかけて、事情を調べてもらうようにしました。しばらくしてやっと真相が分かりました。確かにヨッシーは何気ない気持ちで先生の噂をしたらしいのですが、たまたま奥さんを亡くしたばかりで気が滅いっていた先生にとって、怒る十分な原因になったのでしょう。結局不注意と誤解が重なって不幸な出来事になったのです。私は彼に「起こったことは仕方ないけど、こういう事もあるということを教訓として覚えておきなさい。」
 「いつまでもくよくよするのはやめましょうよ。」と言っておきました。
 AFSの留学の本来の目的は、このような誤解が生まれないように“心の交流”をすることが大切なことなのです。
 私の留守の間、実はとてもいい事もあったのです。ヨッシーのレスリングの公式試合が始まったのです。まず彼はワシントン高校の黒人少年と対戦して8−2で破り、翌週にはパトナム高校の選手を10−2でやっつけるという快進撃をはじめたのです。
 レスリング部のコーチ陣は大喜びですし、チーム全体に士気を湧き立たせるのに十分です。町のあちこちで、東洋からの留学生の話題が聞かれるようになりました。地元新聞社のスポーツ記者も注目するようになりました。ただ、他の学校の父兄で、戦争時代の悪い記憶が残っている人たちの中には、あからさまに嫌な顔をする人もいました。この町にもいろいろな人たちがいます。
 ターレイという所で講演した時、話が終わると、ある老紳士が握手を求めて「君の話を聞いて、日本についての考え方が全く変わったよ。」といわれたこともあったのです。(続く)