2004/5/12東京新聞朝刊より
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踏切の手前では、もちろん車は一時停止しなければならない。それがルールだ。でも、先進諸国の中でこれを義務付けているのは、日本だけだという。「徐行して通過できるように法改正すれば、渋滞緩和にも、省エネ・CO2削減にも大きな効果がある」と自民党の一部議員らが協議会をつくり、検討に動きだしている。踏切では停止か、徐行か、こんな議論をどう思う?
 「昨年に『開かずの踏切』が社会問題になったでしょう。抜本的な解決には、踏切を立体交差化するしかありませんが、その事業コストたるや天文学的数字にならざるをえません。長い年月もかかります。世界のどの国も一時停止義務を課していない現状を考えると、日本もノンストップで踏切を走らせるようにしてもいいのでは」
 こんな持論を展開するのは、自民党の原田義昭衆院議員である。文部科学省の副大臣も務める。
 警察庁によれば、確かに米国や英国など先進諸国では一時停止義務はないが、韓国にはある。
 もちろん日本では、一九三三年に旧内務省令で定められて以来、「一時停止」の伝統がある。
だが、原田氏は「韓国では日本と同じルールを採用しているが、ほとんど守られていないのが実態だ」という。
 「日本でも、完全に一時停止しているのは、四人に一人だという実態調査もあります。ノンストップにすれば、まず交通渋滞が大いに緩和されます。一・七倍から二倍ほどスムーズに走れ、それによる経済的な利益は年間二千億円と試算できます」(原田氏)
 同党の有志約七十人で、ノンストップ化をめざす踏切問題協議会をつくっており、宮路和明衆院議員が会長、原田氏は幹事長を務める。
 同協議会によれば、省エネ効果は年間で原油五十一万キロリットルに達し、全鉄道エネルギー消費の四分の一に相当するという。
 「これは年間百十八万トンのCO2削減効果があり、地球温暖化対策の切り札となります。わが国の遮断機の精度はほぼ100%であることを考えれば、欧米諸国同様に、踏切はノンストップ、徐行させればいい。安全性は心配ないと思う」と原田氏は強調する。
 だが、道交法を所管する警察庁も、鉄道事業を監督する国土交通省も「現状では難しい」と困惑気味だ。
 警察庁交通規制課では、こんな見解を示す。
 「踏切事故は普通の交通事故と比べて、致死率が四十倍も高い。欧米と異なり、日本は鉄道が過密ダイヤを組んでもいます。踏切が開いていても、安全確保のため、一時停止のうえ左右確認と前方確認は大事なわけです」
 同庁では昨年末から今年初めにかけ、踏切での停止について可否を問う、約二千人のアンケートを実施したが、「引き続き実施すべきだ」との回答が90%を超えた。
 「車と列車の交通量を勘案して、踏切での死傷者の割合を各国別に比べてみると、欧州諸国は日本より四倍も高く、米国は三十五倍も高いという数字もあります。安全面から考えても、国民意識から考えても、相当に慎重に検討すべき課題ではないでしょうか」
 国土交通省によれば、全国で約三万六千カ所ある踏切で、遮断機などの誤作動が二〇〇二年度に十四件、二〇〇三年度に九件あった。
 「落ち葉がレールの上に積もったりすると、センサーが反応せず、遮断機が下りないこともある」と同省鉄道局。
 これには反論もある。原田氏はこう続ける。
 「誤作動による事故は一昨年度はゼロ、昨年度は一件あったが、重大な事故にはなっていない。交通教育の徹底などで、安全性は確保できるはずです。一時停止よりも徐行で得られる国民的利益の方が、はるかに高いはずだ」
 同協議会は三月末、四月末と開かれ、今夏にも党内で法改正に向けた検討を行いたい意向だ。
 実はこの問題、一九六〇年代からしばしば国会で取り上げられている“歴史的課題”でもある。社会の安全や利益をどう考えるか、意外と難しいテーマである。

 文・桐山桂一