改正民法の施行について

  

1 2020年4月に,債権法に関する改正民法が施行されました。

 

  債権法部分は,1896年の民法制定後,約120年ぶりに大改正され,この間の日本の社会・経済情勢の変化に対応するために,実質的なルール変更や,現在の裁判や取引実務のルールに沿って,条文を読みやすくする改正が行われております。

 

  改正項目は多岐にわたりますが,今回は「消滅時効」を取り上げます。

  

2 消滅時効に関する見直し

 

(1)消滅時効とは,債権者が一定期間権利を行使しないことによって債権が消滅する制度であり,その趣旨としては,①永続した事実状態の尊重,②権利の上に眠る者を保護しない,③証拠の散逸防止が挙げられます。

 

(2)まず,改正前民法では,消滅時効期間は原則10年で,例外的に短期の消滅時効期間がありました。

   例えば,友人に対する貸金債権は原則の10年,弁護士報酬債権や通販代金債権は2年(短期),飲食店の飲食代金債権は1年(短期)の消滅時効期間でした。

 

           改正民法では,時効の起算点と時効期間の見直しが行われ,

    ①客観的に権利を行使できるとき(客観的起算点)から10年間で債権

      は消滅すること,②債権者が権利を行使できることを知った時(主観的

      起算点)から5年間で債権は消滅することが定められ,③改正前民法の

      短期消滅時効及び5年の商事消滅時効は廃止されました。

 

 

(3)次に,(a)不法行為(詐欺など)による損害賠償請求権については,①被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間で請求権が消滅する主観的時効期間については変わりありませんが,不法行為の時から20年間で請求権が消滅する客観的な時効期間は,除斥期間(職権で判断され,時効の中断の適用がなく,援用が不要)ではなく,消滅時効期間であることが明記されました。

 

   これにより,②についても,債権者側は後述する時効の更新や時効の完成猶予の手続をとることで権利の消滅を阻止することができ,権利の消滅を主張する側は,援用が必要となりました。

 

そして,(b)人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については,①被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間で請求権は消滅し,②客観的に権利を行使できるとき(債務不履行または不法行為時)から20年間で請求権は消滅することになりました。

 

この場合は,主観的な消滅時効期間が延長され,債権者側に有利になりました。また,客観的な時効期間については,(a)同様,消滅時効期間であることが明記されています。

 

(4)なお,改正前民法における時効の中断には、①時効の完成を猶予する効果と、②時効を新たに進行させる効果があったとされますが(裁判手続きに関していえば、裁判上の請求等が終了するまでは時効の完成が猶予され、これが終了した時に時効が新たに進行します)、改正民法は①を「時効の完成猶予」として、②を「時効の更新」として再構成しています。

 

①の効果を発生させる事由には,催告や裁判上の請求などがあり,②の効果を発生させる事由には,確定判決や債務の「承認」などがあります。

 

 

3 「施行日前に債権が生じた場合」または「施行日前に債権発生の原因で

       ある法律行為がされた場合」には,原則として,改正前民法が適用さ

       れます。

 

      なお,改正前民法の不法行為による損害賠償請求権の20年の時効

       期間については,改正民法施行時に,不法行為の時から20年がすで

      に経過していた場合は,改正前民法が適用されます。

 

    また,改正民法の人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償

      請求権の5年間の時効期間については,改正民法施行時に,改正前民法

      の3年間の時効が完成していた場合には,適用されません。